キャッチコピーの調査

  1. キャッチコピーとその目的
    言葉を用いたコミュニケーション、特に書き言葉は人間社会において重要な役割を果たしている。広告活動においてキャッチコピーは大きな影響を私達に与える.一般の書き言葉と異なり、キャッチコピーは短い文字数で注目を引き、端的かつ効果的に対象の特徴を述べるものである.その目的は,受け手の注意を引いて、その関心と興味をかき立て,さらに送り手の期待するような欲望を起こさせて、最後にはその欲望に沿って、受け手にある種の行動を行わせることである [1]。営利目的のキャッチコピーの場合は、「利益を極大化するために、購買者を説得する意図を持った情報のマス・コミュニケーション」[2] という定義がある。
    キャッチコピーには、主にブランド構築を意図する広告キャッチコピーと、商品の販売促進を促す商品キャッチコピーが存在する。どちらの種類のキャッチコピーも、ブランドあるいは商品となる対象に対して好意的なイメージを持たせることを目的としている。従って、キャッチコピーには目的とする対象に関して、情報を伝え消費者の心を捉える必要性がある。
    キャッチコピーには様々な名称がある。各国の違いについて以下の表に示す [3]。

    国名 名称
    アメリカ tags, tag lines, taglines, theme lines
    イギリス end lines, endlines, straplines
    ドイツ claims
    フランス signatures
    オランダ、イタリア pay-offs, payoffs
    (日本以外)一般に slogans

    日本語において、キャッチコピーはキャッチフレーズとほぼ同義であり、標語として用いられることもある。なお,キャッチコピーの英語訳は一般に使われている “slogan” を利用することとする。

  2. キャッチコピーの変遷と社会的背景
    時代によってキャッチコピーの中身は変化してきており、単に商品の登場を告げることを第一にした「知らせればいい」時代から、マーケティング理論に基づいた生活提案型の広告が展開された時代、感性や気分を重視した、いわゆる「ムード広告」「フィーリング広告」の時代を経て、現在では広告のエンタテインメント化は一層進みつつあると言われている [4]。現代では生き残りをかけて、企業が価格競争よりもブランド構築を重要視するようになってきているとも言われている [5]。
    また、広告文の側面も持つキャッチコピーは、経済学や言語学からも盛んに研究が行われている。Kohli ら [6] は、効果的なキャッチコピーを作成するために必要な要素の考察を行っている。Lowrey ら [7] は、ブランド名における語音象徴に関する研究をしている。新井 [8] は、「言葉はなぜ通じるのか」という「関係性の理論」からキャッチコピーの特性分析を行っている。日本社会における独特の文化を背景とする、「場」に焦点を当てた考察 [9] も存在する。
    越川 [10] はブランドネームについて語感に関する分析を行っている。また、脳科学の見地からのブランドの考察も試みられている [11, 12]。
    キャッチコピーの応用先には、雑誌、カタログや CM などに代表される広告利用、一般の人々でも関わる機会が多い出し物やイベント等の呼び込み広告がある。前者はプロのコピーライターがキャッチコピーを作成するが、後者のような例も多く存在し、プロでない人がキャッチコピーを作成するケースが少なくない。
    また、近年ではオンライン上での広告の需要も増大している。例えば、Amazon やeBay を始めとして、世界規模でオンラインショッピングが普及している。日本でも価格.com や楽天におけるショッピングが多くの人々に利用されているが、EC(electronic commerce: オンラインショッピング) 化比率は3.1%と主要国と比べても低く、2014 年 10 兆円である市場規模が 2020 年には 25 兆円に増加するという予測もある [13]。2012年の調査によれば,日本におけるインターネット広告費は 8,680 億円であり、直近 10年間に渡って増加しており、広告全体の市場において 14.7%を占めるまでになっている [14]。このことから Web におけるキャッチコピーを代表とする広告媒体の重要性が今まで以上に増大していることが示唆される。
    さらに、このような流れはパーソナライズ化を加速している。インターネットの最大の特徴は、広告媒体であることに加え、インターネット内でユーザと情報発信者相互にコミュニケーションを取りつつ、ユーザに具体的なアクションを起こすように誘導できる点にある [15]。代表的な例が、利用ユーザによる口コミである。Web で情報収集を行い、商品を購入する消費者数が増大している。従来、広告業界では、Attention、Interest、Desire、Memory、Action (AIDMA) のプロセスに分けて、それぞれの認知要素、知識要素、情緒・感情要素、意図要素、行動要素に消費者の態度を構成するモデル化が行われていた。それに対して、このような従来の AIDMA プロセスではなく、AISAS (Attention, Interest, Search, Action, Share) が提唱されており [16]、検索とシェアを考慮したマーケティングが必要となってきている。
    このように、個人がよりインタラクティブに社会に影響を与えることが可能となっているため、一対多に代表されるマス広告よりも、より特定層や個人に対して、訴えかける広告の需要が増加していると考えられる。具体的には、Amazon に代表される協調フィルタリング [17] 等の技術を使うことが、トレンドとして考えられる。
    以上のような背景によって、よりパーソナライズされたオンデマンドなキャッチコピー
    を作る需要は増しているといえる。
  3. キャッチコピーに関するシステム

    – 海外のキャッチコピーに関するシステム

    英語圏では、キーワードをテンプレート形式に当てはめ、キーワードを含むキャッチコピー生成システム [18, 19] が存在する。また,特にオンライン広告に関する技術に関して数多くの特許が申請されている。1990 年代後半から 2000 年代中頃にかけてのインターネットの興隆を受けて、E メールにおける広告の需要が増大した。これによって、受信後クライアント側のローカルマシンでも広告表示可能である特許 [20] やユーザに応じてテキストにメタデータを付与する [21] 等数々の広告のアイデアが具現化された。このような背景から、各ユーザの電子メッセージに対してキャッチコピーを選択する技術 [22] やメールのやり取りに従って、作成済みの広告の中身が遷移するようなアイデア [23] も採択されている。

    – 国内のキャッチコピーに関するシステム

    日本においても、インターネットの普及とともにオンライン上での広告という形でキャッチコピー関連の研究が行われている。オンラインショッピングの需要の高まりを受け、アクセスログ解析を用いたサイト作成支援方法についての特許も存在している [24]。以上のような背景からキャッチコピーに関するシステムが提案された。特に、酒井ら [25] は、予め用意したテンプレートに対して,ユーザの履歴からキーワードを取得し、ユーザに対してキャッチコピーの生成をするシステムの提案を行っている。
    この流れとは別に、キャッチコピーの生成支援を行うシステムが提案されている。松平ら [26, 27] は、質より量、批判厳禁を旨とする発散的発想支援的な立場から、遺伝的プログラミングを用いたキャッチコピー生成システムを提案した。西原ら [28-30]は、研究発表に限定し,タイトル毎に興味を引きやすいかどうかをランク付けするアルゴリズムを提案した。中野ら [31, 32] はブログ記事を用いて目を引くキャッチコピーを作るための基礎的研究を行った。森本ら [33] によって、商品の属性と属性値を利用したキャッチコピーの自動生成も提案されている。幅野ら [34, 35] によって映画のキャッチコピー生成を目指したものが存在する。

参考文献

[1] 鵜月 洋, “広告文の歴史 キャッチフレーズの 100 年,” 日本経済新聞社, 1965.
[2] 北村 日出夫, 山路 龍天, 田吹 日出硯, “広告キャッチフレーズ,” 有斐閣, 1981.
[3] T. R. V. Foster, “The art & science of the advertising slogan,” ADSlogans Unlimited, 2001.
[4] 深川 英雄, “キャッチフレーズの戦後史,” 岩波新書, 1991.
[5] 阿久津 聡, 石田 茂, “ブランド戦略シナリオ,” ダイアモンド社, 2002.

[6] C. Kohli, L. Leuthesser, and R. Suri, “Got slogan? guidelines for creating
effective slogans,” Business Horizons, Vol. 50, No. 5, pp. 415-422, 2007.
[7] T. M. Lowrey and L. J. Shrum, “Phonetic symbolism and brand name  preference,” Journal of Consumer Research, Vol. 34, No. 3, pp. 406-414, 2007.
[8] 新井 恭子, “関連性理論における「広告のことば」の分析,” 東洋大学経営学部 経営論集 (68), pp. 79-91. 東洋大学経営学部, 2006.
[9] P. Wetzel, “広告にみる日本の言語世界,” 名古屋大学大学院国際言語文化研究科
国際シンポジウム「異文化としての日本」記念論文集, pp. 73-82. 名古屋大学大学院国際言語文化研究科, 2009.
[10] 越川 靖子, “ブランド・ネームにおける語感の影響に関する一考察―音象徴に弄
ばれる私達―,” 商学研究論集, pp. 47-65. 明治大学, 2009.
[11] 山田 理英, “脳科学から広告・ブランド論を考察する,” 評言社, 2007.
[12] 田邊 学司, “なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか?,” ダイアモンド社, 2013.
[13] GMO ペイメントゲートウェイ株式会社 , “EC 市場の進化・拡大を支え、高成長を継続する,” http://corp.gmo-pg.com/assets/files/pdf/140206_gmo_pg
_kessan.pdf.
[14] 電通 , “2012 年 日本の広告費 媒体別広告費,” http://www.dentsu.co.jp/books/ad_cost/2012/media.html.
[15] 宮下到 , “ネット広告の効果を 100%上げ続けるために,” 株式会社宣伝会議, 2008.
[16] 近藤 史人, “AISAS マーケティング・プロセスのモデル化,” JSD 学会誌『システムダイナミックス』, 2009.
[17] X. Su and T. M. Khoshgoftaar, “A survey of collaborative filtering techniques,” Adv. in Artif. Intell., Vol. 2009, pp. 4:2-4:2, January 2009.
[18] Sloganizer.net, “Instant slogans with our slogan generator,” http://www.sloganizer.net/en/, available in June, 2014.
[19] THE-PCMAN-WEBSITE, “Free slogan generator,” http://www.thepcmanwebsite.com/media/free_slogan_generator/index.php,
available in June, 2014.
[20] D. Shaw, C. Ardai, B. Marsh, M. Moraes, D. Rudolph, and J. Auliffe, “Electronic mail system for displaying advertisement at local computer received from remote system while the local computer is off-line the remote system,” US Patent 5,809,242, 1998.
[21] H. Jonsson, “User-based semantic metadata for text messages,” US Patent App. 13/130,850, 2011.
[22] J. Bosarge and R. Little, “Method and apparatus for adding advertising  tag lines to electronic messages,” US Patent 7,599,852, 2009.
[23] J. Aaltonen and S. Saru, “Systems, methods, network elements and  applications for modifying messages,” EP Patent App. EP20,080,159,355, 2009.
[24] 菅 隆彦, 門間 洋二郎, “オンラインショッピングサイト作成支援方法,” 公開特許
公報 (A) 特許公開 2005-202783. 日本国特許庁, 2005.
[25] 酒井 宏明, 麻岡 正洋, 仲尾 由雄, 丸橋 弘治, 山川 宏, “キャッチコピー生成装置およびキャッチコピー生成プログラム,” 公開特許公報 (A) 特許公開 2009-116548.
日本国特許庁, 2009.
[26] 松平 智史, 萩原 将文, “電子化辞書と遺伝的プログラミングを用いたキャッチコピー作成支援システム,” 電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌), Vol.124, No. 1, pp. 164-169, 2004.
[27] 松平 智史, 萩原 将文, “対話型遺伝的プログラミングと電子化辞書を用いたキャッ
チコピー作成支援システム,” 電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌), Vol. 125, No. 4, pp. 616-622, 2005.
[28] 西原 陽子, 砂山 渡, 谷内田 正彦, “聴講者の興味をひく研究発表タイトルの作成
支援,” 言語処理学会年次大会発表論文集, pp. 448-451. 言語処理学会, 2007.
[29] 西原 陽子, 砂山 渡, 谷内田 正彦, “多くの興味をひく研究発表タイトルの作成支援,” 第 21 回人工知能学会全国大会, pp. 2H4-5. 人工知能学会, 2007.
[30] Y. Nishihara and W. Sunayama, “Title-composing support system for reaching new audiences,” In Data Mining Workshops, 2008. ICDMW ’08. IEEE International Conference on, pp. 816-822, 2008.
[31] 中野 俊亮, 鬼沢 武久, “目を引くキャッチフレーズ生成に関する基礎的研究,” 日本感性工学会大会予稿集, p. B71. 日本感性工学会, 2007.
[32] 中野 俊亮, 鬼沢 武久, “ユーザ対話による意外性を持つキャッチフレーズ作成支援,” 全国大会講演論文集, pp. 201-202. 情報処理学会, 2008.
[33] 森本 直樹, 玉川 洋輔, 牧野 正治, 韓 東力, “商品の属性と属性値を利用したキャッ
チコピーの自動作成,” 第 16 回年次大会 発表論文集, pp. 74-77. 言語処理学会, 2010.
[34] 幅野 裕貴, 浦谷 則好, “映画のキャッチコピー作成支援手法,” 言語処理学会 第 19
回年次大会 発表論文集, pp. P6-19. 言語処理学会, 2013.
[35] 幅野 裕貴, 浦谷 則好, “あらすじとレビューを用いた映画のキャッチコピー作成
支援手法の提案,” 言語処理学会 第 20 回年次大会 発表論文集, pp. P7-16. 言語処理学会, 2014.